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東京地方裁判所八王子支部 昭和51年(わ)494号 判決

被告人 梅本秀治

昭二五・五・二〇生 学生

主文

被告人を懲役六月および罰金五万円に処する。

未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実中、器物損壊の点については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、数名の者と共謀の上、氏名不詳者が、他から窃取してきた軽四輪貨物自動車(車両番号足立40あ22―81)一台(時価四〇万円相当)および自動車カバー用シート一枚(時価一万円相当)を、それらが盗品であることを知りながら、同人から、昭和五一年四月二一日ころ、東京都八王子市鑓水二、六三七番地先の山道において預り保管して賍物の寄蔵をしたものである。

(証拠の標目)(略)

本件公訴事実第二は、

「被告人は、ほか数名と共謀の上、昭和五一年四月二二日ころ、東京都八王子市鑓水二、六三七番地先の山道において、株式会社スズキ自販東京所有の前記自動車の車両番号標を取りはずし、その車体をペンキを用いてうすあおみどり色に塗装し、さらにその左側面に「日本電信電話公社」と、またその両側面に「浜町電話局」とそれぞれペンキを用いて白色で記載するなどし、もつて他人の器物を損壊したものである。」

というのである。なるほど、前掲諸証拠によれば、被告人が右の行為に及んだ事実は明らかである。しかしながら、およそ、賍物を故買し、または賍物を収受した者が、たとえ、その賍物を損壊しても、さらに器物損壊の別罪を構成しないものと解されるところ、賍物を寄蔵する行為も、その賍物の所有者の賍物に対する追求権を侵害する点において、賍物を故買し、または収受して、その追求権を侵害するのと異なるところはなく(大審院大正一一年(れ)九七七号、同一一年七月一二日刑事三部判決、刑集一巻三九三頁参照)、また、賍物寄蔵罪の法定刑は、器物損壊罪のそれよりも重いことにかんがみると、器物損壊の行為は賍物寄蔵罪に吸収されるというべきである。

それゆえ、本件公訴事実第二の行為は賍物寄蔵罪に吸収され、さらに器物損壊罪を構成しないものであるから、罪にならないものとして刑訴法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。

(法令の適用)

一  罰条      刑法二五六条二項、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号

一  未決通算    刑法二一条

一  労役場留置   刑法一八条

一  訴訟費用の処理 刑事訴訟法一八一条一項但書

(裁判官 片岡聰)

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